2026年度 科学技術とアントレプレナーシップ

2026年度夏クォーター

「科学技術とアントレプレナーシップ」

シラバス

2026年6月8日現在

お金を出して魚を買うのではなく、魚の釣り方を学びたいと思う人へ

  • 授業担当者: 牧 兼充 (kanetaka@kanetaka-maki.org)
  • オフィス: 早稲田キャンパス11号館1148号室
  • 学期・曜日・時限: 夏クォーター / 月曜日 / 夜間6限(18:30-20:10)、夜間7限 (20:20-22:00)  [W-IOI導入のため教室自体での授業は19:10-22:00]
  • 教室:  3-202
  • ティーチング・アシスタント: 吉田 晃宗
  • このシラバスはあくまで暫定版であり、今後必要に応じて変更する。

[実施形態: この授業はW-IOI形式で実施する。授業は原則対面で行い、不足分の講義はオンデマンド形式にて配信する。W-IOI導入のため教室自体での授業は19:10-22:00となる。]

1. 授業概要
  • 大学を中心とした研究機関から創出される科学技術は、新事業創造のための「知」の源泉である。本講義においては、研究機関において、科学技術に関する「知」がいかにして産み出され、またその産み出された「知」からいかにして、スタートアップを含めた産業が創出されるのかについて扱う。この授業では、社会科学 (経済学、経営学等)の先端的な研究をベースに、科学技術に関するビジネス及び政策について議論する 。
  • この授業は、米国の大学院で一般的なセミナー形式である。各回講師がその分野の先端的な定量分析の英語の論文を3本程度指定し、履修者は毎週少なくとも1本は、事前にその論文を読み込むことが求められる。また学期を通じて数回程度、履修者は指定された論文の概要をプレゼンテーションにまとめ発表すること、ディスカスタントとしてクラスの議論をリードすることが求められる。各回は、講師による講義、学生による発表、論文の内容に関するディスカッション により構成される。
  • この授業は、本来であれば博士課程レベルの内容をMBAの学生に提供するものであり、負荷の高い授業であることが予測されるので、そのことを了解した者のみ履修して欲しい。WBSにおいては比較的負荷の高い授業であるかも知れない。
2. 授業の到達目標
  • 科学技術とアントレプレナーシップの研究分野に関する必要な知識を体系的に理解する
  • 科学技術とアントレプレナーシップに関する理論を実務へ応用できるようになる
  • 科学技術とアントレプレナーシップの研究分野に関する”state of the art”(最先端の知見)を理解する
  • 定量分析の論文を読む込みためのスキルを身につける
  • 定量分析の論文の妥当性を評価するためのスキルを身につける
  • 修士論文に相応しい研究テーマを見つける
  • 修士論文をまとめるにあたって必要な研究を行うためのスキルを身につける
  • ビジネススクール修了後も自分の力でアカデミックな理論を学び続ける力を身につける

3.事前・事後学習の内容

  • 各回の授業では、予習として指定された英語の論文3本のうち少なくとも1本読み込んでくることが求められる。ただし、この予習は生成AIを積極的に使うことを前提としているが、自分自身がしっかり内容を理解することを求める。
  • 定量論文を読み込むためには、因果関係の推論などの科学的な思考力が求められる。その訓練をあまりしていない者は、他の履修者よりもより準備に時間を割いてもらうことが前提となる。
  • 英語が得意でないものも、生成AIを活用すれば十分についていける授業であると考えている。

4. 授業計画 

第1週
6月8日(月)
第01回 イントロダクション
第02回 科学的思考法/ 論文を読むにあたっての生成AIの活用法 (ゲスト: 吉田 晃宗 氏 – 創造理工学研究科経営デザイン専攻博士課程)
第2週
6月15日(月)
第03回 Topic 01: イノベーションは誰が担うのか ― 大企業 vs 小企業
第04回 Topic 02: アントレプレナーはどこから生まれるのか
第3週
6月22日(月)
第05回 Topic 03: スターサイエンティストはなぜ重要か
第06回 Topic 03: スターサイエンティストはなぜ重要か – 追加
(ゲスト: 隅藏康一氏 – 政策研究大学院大学教授)
第4週
6月29日(月)
第07回 Topic 04: 科学技術の知は、なぜ特定の地域に集積するのか
第08回 Topic 05: なぜ起業活動は特定の地域に集積するのか
第5週
7月6日(月)
第09回 Topic 06: アントレプレナーの活動を促進するものは何か
第10回 Topic 07: ベンチャーキャピタルはなぜ重要なのか
第6週
7月13日(月)
第11回 Topic 08: インセンティブは発明とビジネス化にどの程度重要なのか
第12回 Topic 09: 大学における知財とインセンティブの関係
第7週
7月20日(月)
第13回 Topic 10: 大学発ベンチャーはイノベーションを促進するのか
第14回 「研究者が国を動かす戦略と実践」/ まとめ

7月27日(月)は補講日であり、不測の事態などにより、授業を実施する可能性があるため、スケジュールを空けておくこと。

5. 教科書

6. 参考文献

  • その都度、授業において紹介する。

7. 成績評価方法

  1. 授業の出席: 25%
  2. ディスカッションへの貢献: 25%
  3. 論文サマリーの提出: 25%
  4. 論文の発表: 25%
  5. (+エクストラ・クレジット (他者の学びに貢献): 最大5%)

(注) 「授業の出席」、「ディスカッションへの貢献」、「論文のサマリーの提出」で8割を得られれば、「B」を保証する。「論文の発表」は「A+」「A」を求める人は必須ではあるが、「B」で良い人は必須ではない。

8. 備考・関連URL
  • 最新版のシラバスはウェブにて公開されている。常にそちらを確認すること。このシラバスは今後適宜変更を行う。
  • 授業は全てディスカッション形式である。必ず各回の授業の準備をしっかり行ってくること。議論の質は担当教員の力以外にも、履修者の準備の量によって規定される。
  • この授業は、時間通りに開始し、可能な限り時間通りに終了する。授業の質を下げないために、履修者は時間を守ること。全授業に出席することを前提としている。
  • 授業担当者の個人サイト : https://www.kanetaka-maki.org/

9. 課題文献

Topic 01: イノベーションは誰が担うのか ― 大企業 vs 小企業

  1. Acs, Z.J., Audretsch, D.B. 1988. Innovation in large and small firms: An empirical analysis. American Economic Review. 78(4) 678-690.
  2. Haltiwanger, J., Jarmin, R.S., Miranda, J. 2013. Who creates jobs? Small versus large versus young. Review of Economics and Statistics. 95(2) 347-361.
  3. Guzman, J., Stern, S. 2017. Nowcasting and placecasting entrepreneurial quality and performance. In Haltiwanger, J., Hurst, E., Miranda, J., Schoar, A. eds. Measuring Entrepreneurial Businesses: Current Knowledge and Challenges. University of Chicago Press. 63-110.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第3章「イノベーションは誰が担うのか―大企業 vs 小企業」. 東洋経済新報社.)

Topic 02: アントレプレナーはどこから生まれるのか

  1. Nanda, R., Sørensen, J.B. 2010. Workplace peers and entrepreneurship. Management Science. 56(7) 1116-1126.
  2. Giannetti, M., Simonov, A. 2009. Social interactions and entrepreneurial activity. Journal of Economics & Management Strategy. 18(3) 665-709.
  3. Lerner, J., Malmendier, U. 2013. With a little help from my (random) friends: Success and failure in post-business school entrepreneurship. Review of Financial Studies. 26(10) 2411-2452.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第4章「アントレプレナーはどこから生まれるのか」. 東洋経済新報社.)

Topic 03: スターサイエンティストはなぜ重要か

  1. Zucker, L.G., Darby, M.R., Armstrong, J.S. 2002. Commercializing knowledge: University science, knowledge capture, and firm performance in biotechnology. Management Science. 48(1) 138-153.
  2. Azoulay, P., Graff Zivin, J.S., Wang, J. 2010. Superstar extinction. Quarterly Journal of Economics. 125(2) 549-589.
  3. Oettl, A. 2012. Reconceptualizing stars: Scientist helpfulness and peer performance. Management Science. 58(6) 1122-1140.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第5章「スターサイエンティストはなぜ重要か」. 東洋経済新報社.)

Topic 03: スターサイエンティストはなぜ重要か – 追加

  1. Azoulay, P., Fons-Rosen, C., Graff Zivin, J.S. 2019. Does science advance one funeral at a time? American Economic Review. 109(8) 2889-2920.

Topic 04: 科学技術の知は、なぜ特定の地域に集積するのか

  1. Zucker, L.G., Darby, M.R., Brewer, M.B. 1998. Intellectual human capital and the birth of U.S. biotechnology enterprises. American Economic Review. 88(1) 290-306.
  2. Zucker, L.G., Darby, M.R. 2001. Capturing technological opportunity via Japan’s star scientists: Evidence from Japanese firms’ biotech patents and products. Journal of Technology Transfer. 26(1/2) 37-58.
  3. Zucker, L.G., Darby, M.R. 2007. Star scientists, innovation and regional and national immigration. National Bureau of Economic Research Working Paper No. 13547.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第6章「科学技術の知は、なぜ特定の地域に集積するのか」. 東洋経済新報社.)

Topic 05: なぜ起業活動は特定の地域に集積するのか

  1. Agrawal, A., Cockburn, I., Galasso, A., Oettl, A. 2014. Why are some regions more innovative than others? The role of small firms in the presence of large labs. Journal of Urban Economics. 81 149-165.
  2. Fallick, B., Fleischman, C.A., Rebitzer, J.B. 2006. Job-hopping in Silicon Valley: Some evidence concerning the microfoundations of a high-technology cluster. Review of Economics and Statistics. 88(3) 472-481.
  3. Casper, S. 2007. How do technology clusters emerge and become sustainable? Social network formation and inter-firm mobility within the San Diego biotechnology cluster. Research Policy. 36(4) 438-455.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第7章「なぜ起業活動は特定の地域に集積するのか」. 東洋経済新報社.)

Topic 06: アントレプレナーの活動を促進するものは何か

  1. Di Gregorio, D., Shane, S. 2003. Why do some universities generate more start-ups than others? Research Policy. 32(2) 209-227.
  2. Yu, S. 2020. How do accelerators impact the performance of high-technology ventures? Management Science. 66(2) 530-552.
  3. Agrawal, A.K., Catalini, C., Goldfarb, A. 2011. The geography of crowdfunding. National Bureau of Economic Research Working Paper No. 16820.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第8章「アントレプレナーの活動を促進するものは何か」. 東洋経済新報社.)

Topic 07: ベンチャーキャピタルはなぜ重要なのか

  1. Kaplan, S.N., Sensoy, B.A., Strömberg, P. 2009. Should investors bet on the jockey or the horse? Evidence from the evolution of firms from early business plans to public companies. Journal of Finance. 64(1) 75-115.
  2. Hellmann, T.F., Schure, P., Vo, D.H. 2021. Angels and venture capitalists: Substitutes or complements? Journal of Financial Economics. 141(2) 454-478.
  3. Ewens, M., Nanda, R., Rhodes-Kropf, M. 2018. Cost of experimentation and the evolution of venture capital. Journal of Financial Economics. 128(3) 422-442.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第9章「ベンチャーキャピタルはなぜ重要なのか」. 東洋経済新報社.)

Topic 08: インセンティブは発明とビジネス化にどの程度重要なのか

  1. Azoulay, P., Graff Zivin, J.S., Manso, G. 2011. Incentives and creativity: Evidence from the academic life sciences. RAND Journal of Economics. 42(3) 527-554.
  2. Ederer, F., Manso, G. 2013. Is pay for performance detrimental to innovation? Management Science. 59(7) 1496-1513.
  3. Roach, M., Sauermann, H. 2010. A taste for science? PhD scientists’ academic orientation and self-selection into research careers in industry. Research Policy. 39(3) 422-434.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第10章「インセンティブは発明とビジネス化にどの程度重要なのか」. 東洋経済新報社.)

Topic 09: 大学における知財とインセンティブの関係

  1. Thursby, J.G., Fuller, A.W., Thursby, M.C. 2009. US faculty patenting: Inside and outside the university. Research Policy. 38(1) 14-25.
  2. Lach, S., Schankerman, M. 2008. Incentives and invention in universities. RAND Journal of Economics. 39(2) 403-433.
  3. Azoulay, P., Liu, C.C., Stuart, T.E. 2017. Social influence given (partially) deliberate matching: Career imprints in the creation of academic entrepreneurs. American Journal of Sociology. 122(4) 1223-1271.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第11章「大学における知財とインセンティブの関係」. 東洋経済新報社.)

Topic 10: 大学発ベンチャーはイノベーションを促進するのか

  1. Shane, S., Stuart, T.E. 2002. Organizational endowments and the performance of university start-ups. Management Science. 48(1) 154-170.
  2. Lerner, J. 1999. The government as venture capitalist: The long-run impact of the SBIR program. Journal of Business. 72(3) 285-318.
  3. Howell, S.T. 2017. Financing innovation: Evidence from R&D grants. American Economic Review. 107(4) 1136-1164.

(参考: 牧兼充. 2022. 『イノベーターのためのサイエンスとテクノロジーの経営学』第12章「大学発ベンチャーはイノベーションを促進するのか」. 東洋経済新報社.)

10. 授業履修に際しての Honor Code

  • 早稲田ビジネススクールの定める「WBS 授業履修に際しての Honor Code」を遵守すること。
  • 本授業におけるHonor Code
    • 全ての課題については、履修者同士で相談しても構いません。必要に応じて、グループで議論することを推奨する。

11. この授業におけるAIツール活用に関する方針 (Ethan Mollick氏のシラバスをベースに一部改編)

  • この授業では学生がAI (生成AIを含む様々なAIツール)を活用することを期待している。AIを活用する力は現代社会における必須スキルである。これらのツールの活用の仕方について授業においても取り上げる。
  • 生成AIの限界を理解した上で利用すること
    • あまり深く考えられていないプロンプトを入力すると、質の低い結果が出力される。良い結果を得るためには、プロンプトを工夫する必要がある。これにはそれなりの訓練が必要である。
    • 出力結果の内容を信頼してはならない。出力結果の中には数字や「事実」が含まれるが、自分が元々知識を持っているか、他の参考文献により確認しない限りは、誤ったものとして扱うこと。このツールを活用することで生じる内容の誤りについては、自分で全責任を持たなくてはならない。従って、自分が良く知っているトピックに関して、使いやすいツールであると言える。
    • AIはツールであるが、利用した場合にはその旨を示す必要がある。もしAIを利用した場合には、AIをどのように利用したか、結果を得るためにどのようなプロンプトを利用したかを、全ての課題において具体的に示すこと。AIの利用法を示さないことはHonor Codeの違反であり、不正行為となる。
    • このツールをどういう時に利用するべきかを自覚的に考えること。このツールを利用することが相応しくないと考えられる時には、利用しないこと。

12. Diversity, Equity, and Inclusion”の尊重

  • この授業は、インクルーシブであることを前提としている。
  • この授業では、すべての学生が、人種、自認する性別、性的指向性、社会的地位、年齢、障害の有無、宗教、出身地域、国籍、言語の得意・不得意、学びに割ける時間の量、過去に学んできた総量、その他個々人の多様性を生み出すものすべての観点において、同等に学ぶ権利を提供することを目指す。
  • この授業がインクルーシブであるほど、多様性が生まれ、イノベーションや創造性が強化され、皆さんの学びの体験が向上する。インクルーシブな授業の実現のためには、履修者の皆さんのご理解が不可欠である。どうか積極的に参加し、助け合って、そして皆さんのピアのことの理解を深めていただきたい。
  • 多様性、人とは違うということを相互にリスペクトし、それを強みにして、より良いラーニング・コミュニティを築いていくことを目指す。